― 鷹司高校物語 ―
心地よく照りつける朝の光、さわやかすぎる朝
「う~ん・・・」
長い金髪に寝返りでついたシワが目立つパジャマ。
ベッドの上でうつ伏せのだらしない格好で寝ているのが本作の主人公である榊原涼。
そこへ下から涼の母である千代が怒鳴り声を上げて階段を上がってくる音がした。
「涼!あんたいつまで寝てるの!さっさと起きな!」
千代は涼の部屋の扉を乱暴に開けると、ベッドのから落ちかけている涼を頭を叩いた。
「痛っなにすんだよ朝っぱらからぁ」
涼はまだ寝ぼけているせいか目が半開きになってて、ずいぶんと間抜けな顔をしている。
「なに言ってんだい、護が迎えに来てるよ!それにあんた今日は始業式だろうが」
まだまだ寝たりなかったが涼は寝起きで重たい体を引きずって下へ降りた。
「涼、おはよう」
「あっおはよう」
下へ降りるときちんと制服を着込んだ護が涼を待っていた。おそらく千代があげたのだろう。
護は程よく切りそろえられた黒髪に端整な顔立ちが目立っていた。
「ゴメンゴメン、急いで支度するからもうちょい待ってって!」
涼は護にそう断わるとテーブルにおいてあったトーストを咥え、制服に着替えるため二階へ上がっていった。そこへ入れ違えに二階から千代が降りてきた。
「悪いねぇ毎回毎回待たせちゃってさ。その辺に座って待ってってちょうだい」
千代はリビングにあるソファーに座るように勧めたが、護は丁寧にそれを断わった。
「しかしあんたもあの子と付き合うなんて変わってるねぇ。一体あの子のどこがよかったのさ?」
千代は腕組みをして怪訝そうに聞いた。その問いに護はやわらかい笑みを浮かべ、
「全部ですよ」
護はさらっと言った。その言葉に千代は呆気に取られたが、すぐに大きな口で大笑いして、
「そうかいそうかい!まあこれからもあの子を頼むよ」
千代は護の肩をバシバシと叩くと台所の方へ姿を消した。
そこへ階段からバタバタと足音を立てて、
「わりぃ!まだ間に合うか!?」
「なんとか」
「よし!全力疾走だっ」
俺と護は付き合っている。俺の親も護の親もすでに公認済みで、なぜだか友達にも認められた仲だ
もともと俺のオカンと護のオカンが昔からの友達で、家も近所だった。よくある幼馴染ってやつ
幼稚園から今までずっと一緒。一緒にいるのが当たり前に感じることもよくあった
いつから護のことが好きになったかは憶えていない。気づいたらお互いに惹かれあっていた
「セーフ!」
教室の扉を勢いよくあけた涼はそう叫んで護と共に教室に駆け込んできた。
「残念だったな榊原、アウトだ」
しかし教卓にはすでに担任の柴田が出席を取っていた。
「なんでぇ!まだチャイム鳴り終わってないじゃん!」
「やかましい!鳴ったらそれでジ・エンドなんだ!文句があるならもっと早く来い!」
そう言われては何も言えない涼はトボトボと席に向かうと、柴田は「さっさと席つかんかい!」と入ってきた涼の肩を思い切り叩いた。涼の後ろには護も居たのだが、護の場合は、
「お前はどうせ榊原を待ってたんだろ。まったくイチャイチャするのはよくないぞ」
だけで済んだ。涼の場合とはとてつもない違いである
「なんだよぉ俺ばっかり・・・」
涼は柴田に叩かれた肩を大袈裟に押さえながらトボトボと席についた。護は涼の隣の席についた。
「これで全員だな。じゃあ連絡するぞぉ」
柴田はいつものおっさん特有の野太い声で連絡事項を伝達していた。
「北畠は後で始業式が終わったあとで職員室に来い。それじゃ連絡はこれで終わりだ。全員体育館に行けー」
柴田はそれだけ言うとさっさと教室から出て行った。
「校長の話長かったなぁ」
「だよなぁ」
始業式が終わり、尾張組の教室に生徒たちが帰ってきた。
全員がそれぞれに雑談を始めると、涼の後ろの席である佐竹宏平が、
「そういえばよ、今日なんか編入生が来るらしいぜ」
涼にしてみれば、さほど興味も無い情報を教えてくれた
宏平の話によれば編入生は二人で、両方とも男らしい
なんでも二人とも理事長の知り合いで、生粋のお坊ちゃまだという。
「お坊ちゃまとか一番ニガテなタイプなんだよなぁ」
宏平は10人兄弟の末っ子なので、そういう金持ちというものに縁が無い。
すると教室の扉がガラガラと開き、柴田と護が帰ってきた。
「さっさと席に着けー。今日は編入生がいるからなぁ」
柴田は教卓に立つと、独特の野太い声を響かせて言った。
全員が席に着いたのを確認すると、柴田は教室の外にいる二人を呼んだ。
入ってきた二人の編入生―九条公孝と近衛裕真はいかにも良家のお坊ちゃんなオーラを身にまとって、教卓の前に立った。
「九条公孝です。今日からよろしくお願いします」
公孝は肩まで伸びた黒髪に、人を射抜くような鋭く切れ長の目。近寄りがたいオーラを醸し出していた。
「近衛裕真です!わかんないことだらけだけど、これからよろしく!」
一方の裕真は長すぎず短すぎずの金髪に、なんだかヘラヘラ笑っていたいた。人懐っこい親近感の沸くオーラをしていたが、どこか大人っぽい感じもした。
その裕真は、なぜだかさっきから涼のほうばかり見てくるのはなぜだろう。
「じゃあとりあえず、お前たちは一番後ろの席に座ってくれ」
柴田は一番後ろに用意された席を指差すと、二人にそこに座るように言った。
このとき涼は思いもしなかった。この二人が、涼と護に最大の危機をもたらすことを・・